エゴイスト  〜不二side〜





ただ、欲しかっただけなんだ。

それが叶うことのない願いだったとして…僕はどうするのだろう?

不様に 「心惹かれるんだ」 「愛しているんだ」 「一緒に居て…」

…そんな言葉を叫んだところで、『彼』の心と記憶が、昔に戻るわけでもないのに。

そして今僕は、新たな獲物をこの手中に収めていた……


「越前君…?起きて、お風呂に入ろう?」

「……うう…ん」

「はぁ…仕方ないなぁ」


このまま寝かせてあげたいけど…少し酔いを醒ませてあげないと、明日が辛いだろうし。

まぁ…シャワーを浴びたら、嫌でも目が覚めるだろうな。


「起きない君が、悪いんだからね?」


そう呟くと、越前の衣服を全て剥ぎ取った。

白い肌…まだ男らしい体格をしていないから、とても綺麗だ。

それに欲情しないよう目を背け、僕自身の衣服も脱いだ。

お互い何も身に纏わない姿になると、彼を抱いて浴室へと入った。


「越前君?ほら、起きて…」

「んぅ…?」


ボンヤリと、越前は目を開けた。

目を擦りながら僕を見上げる姿は、可愛い以外何でもない。

まだ状況を掴めない越前を完全に起こす為に、思い切りシャワーのノズルを回した。


「うわ…っ熱!!」

「クス…ごめんね、熱かった?」

「何するんすか!?…え、先輩…裸…?」


僕の姿を見て、顔を赤くする越前。

恥かしがる必要は無いんじゃないかな?男同士なんだしさ。


「君だって裸だよ?」

「え?!…うわ…!!?」


自分の姿を確認した越前が、この状況に慌て始めた。

ふふ、面白いなぁ。


「何なんですか!?俺、こんなこと…」

「酷いな…君を想って、お風呂に連れて来たのに」

「そうは言っても…!」

「二日酔い、なりたくなかっただろ?」


僕が近づくと、必死に自分「自身」を隠そうとする越前。

そんな姿を見て…僕の中の欲望が、目を覚ました。


「先輩!?ちょ…!!」

「いくらでも叫んでいいよ。誰にも聞こえないし、誰も助けに来ないから」

「ん…?!」


越前の柔らかな唇を、噛み付くように奪った。

そして彼の下肢へ腕を伸ばし、勃ち上がりかけているものを弄った。

少し触っただけで、すぐにそれは僕の手の中に液を放った。


「越前君、イクの早いよ。もしかして、ずっと触って欲しかったんじゃない?」

「………」


何も言わない越前の答えを、肯定と受け取った。

素直だね…本当に。

何も隠し事、出来ないんじゃないかな?


「もっと触ってあげる」


どうすれば気持ちが良いのか…それは英二とのSEXで経験済みだ。

僕自身男だから、大体解る。越前が今、どうしてほしいのか…。


「不二、先輩…」


艶っぽい表情の越前が、僕を見る。

それだけで僕の心は締め付けられる感じがした。

その痛みを消し去るように、僕は越前のモノを握り、そのまま口に含んだ。


「先輩…!き、汚いよ…」

「汚くないよ…」


舐めるように舌を這わせ、先端を強く吸ったり、甘噛みしたり。

その度に越前の身体は震え、何度も白い液体を僕の口に出した。


「先輩…体が熱いよぉ…」

「…………挿れてあげない。僕自身を守る為に、君自身の為に」


越前は困惑した表情をしたが、すぐに快楽の表情に戻った。

僕が一層激しく、彼のモノを扱いたから。

もう無理だ。そう思える程まで何度も液を吐き出させた。

途端崩れる体を湯船に運び、そのまま抱きしめた。


「不二先輩…?」

「……何も言わないで。じゃないと僕は、君を壊してしまう……」

「先輩…」


越前は押し黙ると、そっと僕の唇にキスをした。

いくら欲望を吐き出させたからと言って、まだ満足したわけじゃないだろうに。

でも君を抱く事は出来ない。…僕はもう、誰も傷つけたくない。失いたくないんだ。


「今なら、ちゃんと言える…俺、先輩が好き…」

「……え?」

「だから、先輩が抱いてくれなくても我慢する。…いつか、好きと言って抱いてくれる日まで」

「……越前君」


彼を立たせ、僕はその足に縋りつくように手を伸ばし、顔を近づけ…。

その太股に紅い斑点を付けた。

好きと言葉には出せない。それは彼を傷つける事になるから。

だから…その代わりに。


「僕の気持ちを…これで確認して」

「…有難う、不二先輩」


越前は僕に抱きつくように首に腕を回すと、嬉しそうに微笑んだ。

その姿に、罪悪感を覚える。

僕は…君を幸せにする存在なのか?それとも…破滅へと導く存在なのか?

どちらでもいい…今が幸せなら。

だから…我侭を言わせて?


「不二先輩じゃない…『周助』って呼んで…?」

「ん…俺の事も、越前じゃなくて『リョーマ』って呼んで?」


どちらともなくキスをした。湯船に唾液が流れ、身体に纏わり付くように漂っていた。

それでも気にならない。

幸せを…一時でも感じているのだから。

確かに『今』は幸せだった。この先にどんな事が待っていようと、リョーマとなら乗り切れる気がした。

しかし対照的に…胸の痛みは徐々に強くなり、僕の心を苦しめた。


【楽にはなれない。僕は幸せになる権利がない】


もう一人の心の中の僕が、そう囁いた気がした。